2018年の総括<読書習慣など>
今日も残すところわずか。せっかくなので2018年の総括をする。
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1年間のブログについて
読書が習慣になり、読んだ内容を忘れないようにブログに書くようになった。
結果として、このブログを開設してから最多の記事数を投稿した(この記事を含めれば20記事)。
一時は読書ペースとブログペースが合っていたが、最近は読むペースが速くなり、ブログが間に合わなくなってきたため、軽く感想をメモして、読書メーターにとりあえず記録するスタイルに移行しつつある。
しかしながら、今後も書いていけるようがんばりたい。
読書習慣について
意識して読書を習慣にしたいと思ったわけではなかったが、うまいこと習慣がついたので、うまくいった理由を書いておく。
図書館で借りる
- 返却期限があると、否が応でも読む。
- 計画的に読み進めていたが、返却期日にまとめて読むこともあった。
- 大事 :目標を分かりやすく、明確にすること。その目標を達成すること。
短編を選ぶ
- 100P前後の短編だと読み進めやすいことに気づき、基本的には短篇集を読むことにした。
- 短編は起承転結がわかりやすいし、一気に読めるので、続きが気になるというストレスがなくなる。短い移動時間でも読み進めようという気持ちになる。
- 大事 : 続けやすい方法をとる。得意を伸ばす。
感想を書く
- あらすじは思い出せるのにタイトルは思い出せない……ということが何度かあったため、タイトルとあらすじはメモしておかなければいけないと気づいた。
- 記録することで達成感も高まり、感想を書こうと意識することで物語の理解が深まった。
- 大事 : 達成感。単純作業だけではなく、頭を使う作業を混ぜる。
ベスト本
1年間で読んで良かった本。
感想ブログを書いた中では「歌おう、感電するほどの喜びを!」。
この本を読んで、ブラッドベリのノスタルジーに取り憑かれた。「さよならの物語」をこの歴史的節目に読めてよかった。
「華氏451度」も長編ながら読破したし、ディストピアつながりで「一九八四年」も読むきっかけとなった。
- 作者: レイ・ブラッドベリ,伊藤典夫
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2014/04/24
- メディア: 文庫
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ベスト短編
本ではなく、作品から選ぶとしたら、
「万華鏡」 (レイ・ブラッドベリ, 「刺青の男」)
と
「輝く断片」 (シオドア・スタージョン, 「輝く断片」) 。
人生の意味はなにか。生きようとする人間の力強さ。 そういう作品に惹かれる。
蛇足「一九八四年」について
- 作者: ジョージ・オーウェル,高橋和久
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2009/07/18
- メディア: ペーパーバック
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ブログに感想を書かなかったので今年中にメモ。
ディストピア小説として有名な作品だったので、かなり期待してしまったのもあった。
序盤のディストピア世界観・独自言語・独自用語はSFなのだが、最後まで読むと、この作品の欠陥は現実世界にも当てはまることに気づいてしまう。
ディストピア小説ではあるが、社会を浮き彫りにするバイブルだ。
例えば、
事実は後から捻じ曲げられる こと。
小説の中だけでなく、根も葉もない噂や憶測が飛び交う現実世界でも起こっていることなのだ。
過去の記録は簡単に書き換えられる。人もいずれは書き換えられた記録を真実と思い込む。 その恐ろしさを考えてしまう。
最後に
自分も、自分の周りも、社会も、色々あった1年間だった。
個人的には、見識、知識を深められた1年間だった。
来年もがんばっていきます。
キャビアを食べたことはない<輝く断片>
奇想コレクションの「輝く断片」を読みました。
- 作者: シオドア・スタージョン,大森望
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
- 発売日: 2005/06/11
- メディア: 単行本
- 購入: 1人 クリック: 23回
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「不思議のひと触れ」と「[ウィジェット]と[ワジェット]とボフ」も読んだので、奇想コレクションのスタージョンは制覇できました。ようやく。
「ウィジェットと〜」は表題作以外結構軽かった印象なのですが、今回はすごく読み応えがある作品が多かったです。もう1回読み直してもいいかもしれない。(といいつつ読み返さないタイプ)
感想
- 取り替え子
取り替え子という概念をはじめて知った。魔女狩りの赤ん坊版みたいなものか。
子供を育てられる立派な大人であることを証明するために、取り替え子の赤ちゃんを育てることになった主人公夫婦の子育て奮闘劇。 取り替え子の雰囲気がオッサンなのが面白い。実質オッサン。
取り替え子も愛されると本当の子供になるんだよ、というある意味での美女と野獣ストーリーである。
- ミドリザルとの情事
艶笑(えんしょう)話。
ミドリザルについては以下のように説明されている。
「ジャングルでサルを一匹捕まえて体を緑色に塗ると、ほかのサルたちがよってたかって噛み殺しちゃうんだって。自分たちと違うから。危険だからじゃないのよ。一匹だけ違うからっていうだけの理由」
このストーリーでいう"ミドリザル"は恐らく性的少数者のことだと思われる。作品の初出が1957年なので、この年代にそれを突き詰めているのはすごい。
夫がいながら“ミドリザル”な存在に惹かれて行く女性。その描写がそれとなく美しい。
社会更正ってなんだよ、結局出る杭は打たれるのと同じじゃないか、っていう皮肉が効いてる小説。
- 旅する巌
「[ウィジェット]と[ワジェット]とボフ」や「三の法則」など、スタージョンおなじみ、宇宙人による恩恵を受ける系の話。
作家とそれを支えるエージェント(プロデューサー的なものか)の話。 すごい美しい小説を書いた小説家が、小説とは真逆の荒々しい性格だった。そんなはずはないとエージェントの主人公が奔放する。
恐怖から完全に切り離されると人はどうなるのか、人は恐怖ゆえに人を傷つけるのか。
- 君微笑めば
サイコパスという概念が浸透する前のサイコパス小説である!そう思うとタイトルが憎らしい。
他人を貶めることに快楽を覚える人間、それにノイズを覚えノイズを消すために殺すことをなんとも思わない人間、どっちが果たして「良い」のか。それは難しい問題だ。
- ニュースの時間です
これは本当にヤバイ。突拍子もない設定、その設定のまま突き通されるストーリー、突拍子もないラスト。
ラジオ・新聞といったニュースに異常なほど齧り付く男。それにうんざりして禁止する妻。すべてを失い狂った男は家を飛び出し、山奥で過ごすことにしたが、だんだんと文字が読めなくなり、言葉も聞き取れなくなっていく。
これのなによりもヤバイことは、ロバート・A・ハインラインからもらったプロットに基づいた作品だということだ。恐ろしすぎるコラボレーションである。
- マエストロを殺せ
バンド内のいざこざを扱うサスペンス。
醜い顔の主人公が天才でイケメンの指揮者に嫉妬して、殺人を犯す。そこからがストーリー本番なのがやばい。
指揮者を殺してもバンドには「彼が生きていた」。彼が生きていた頃の音楽と全く変わらなかった。今度こそ指揮者を殺すために主人公はまた奔走する。
主人公の「おれのような醜い人間が生きるためには天才は殺さなきゃならねえ」っていう感情の動き。劣等感がもたらす、使命感に満ちた衝動的な行動に少しだけ共感してしまう。
- ルウェリンの犯罪
生きること、働くことだけで精一杯な主人公が、数十年ごしに一緒に住んでいた女性と結婚していることに気づき、家計を管理してもらっていたことに気づき、自分がなにもできない・知らない人間だということに気づく。
序盤で主人公の行動が意味不明だと思ったら、そういうことか、って主人公・読者共々気づかせるのがすごい。そういうことか。
「悪いことなんかできるわけがないとてもいい人」である主人公がそのレッテルから逃れようとし、そして大切なものを失う話。
- 輝く断片
表題作。作者が「最も力強い作品」と銘打った通り、すごく力強い。心がかき乱される作品。
冴えない男が、瀕死の女性を助けて、ぜんぶ自分で助けようとして、でもそれは間違っていて、でも男はそれを理解できない。 必要としてほしい、孤独な心。
序盤がまさかの血みどろ展開、グロテスクな描写なので注意。
最後に
スタージョンが描くのは「孤独」と「愛」だ。(シオドア・スタージョン - Wikipedia)
孤独だからこそ、愛を必要とするし、愛する相手を必要とする。そして孤独なものは愛の対象となる相手をどこかで履き違えてしまう・間違えてしまう。そんな矛盾を描くのがスタージョンなのだ。
自問自答のテンプレ<[ウィジェット]と[ワジェット]とボフ>
スタージョン・奇想コレクションの「[ウィジェット]と[ワジェット]とボフ」を読みました。
[ウィジェット]と[ワジェット]とボフ (奇想コレクション)
- 作者: シオドアスタージョン,若島正,Theodore Sturgeon
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
- 発売日: 2007/11
- メディア: 単行本
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最近メモばかりしてブログ更新してなかったのですが、スタージョンということでメモ代わりにブログ書くことにしました。
スタージョンの物語のタイプ
編者あとがきにも記載の通り、スタージョンは同じテーマを色々な物語で適用している。悪く言えば同じネタを使いまわしている。
例えば、
- 登場人物が「自分は普通の人間ではない」と感じているという葛藤。
- 自分が何者であるかという疑問。
- 地球外生命体が人間に思わぬ恩恵を与える話。
- ブルドーザー。
これらがスタージョンの作風を表している、と言えるわけではないが、作者の根っこにある経験・考えが垣間見えて面白い。
感想
- 帰り道
家出した少年が、街を出て戻ってきた男性たちの様々な人生を聞く。成功した男、放浪する男。どれも一長一短。
結局、彼は家出せずに家へと戻る。
外に出たいという衝動が青春っぽい雰囲気で、アメリカ映画のような印象を持った。
- 午砲
普通小説。
所謂負け組な主人公が、バーで素敵な女性に会って一瞬浮かれるものの、強そうな男性が同伴してたというベタな展開。一度は逃げるものの、ふたたびバーへと復讐を果たしに向かう。
午砲のエピソードなど、スタージョンっぽい不思議な後味がある物語。
- 必要
今回一番気に入った作品。一番スタージョン特有のトリッキーさとセンスオブワンダーに溢れていた作品。
妻に逃げられた男の前に現れた、人間が必要としているものが視える男となんでも揃えてる〈よろずあきなひ屋〉の店主。
男は妻が帰ってきて「欲しい」が、妻には介抱できる人が「必要」だった。必要なものと欲しいものの違いとはなにか。
視える男の苦悩とか、よろずあきなひ屋との奇妙な関係とか、スッキリするハッピーエンドとか、全部すごい。すごいです。
- 解除反応
スタージョンのブルドーザー小説シリーズ。
記憶が不明瞭になってしまった主人公が意識を取り戻そうと目の前に現れた男に質問し、自問自答する。
ヴィーナス・プラスX (未来の文学) の序盤と似たものを感じた。自分が何者であるかという疑問を、自分の記憶を辿ることで解決しようとするのだ。
スタージョンにとって自己とは地続きで記憶に依存している、そういうことなのだろうか。
- 火星人と脳なし
コメディタッチなSF。
火星の電波を受信しようと必死になった父親のエピソード、そのあとに語られる主人公が出会ったとびっきりの女性の話。全く関係ないように思える二者が思いがけずつながっている。
主人公は「気が合う」と思った女性は、いつだって主人公に同意し、いつだったそれとなく話をぼかす「脳なし」だった。 (ELIZA - Wikipedia みたいな発話しかしないというわけだ)
しかしながら、実は彼女は火星の電波を受信しており、実は……とどんでん返しなラストで終わる。
- [ウィジェット]と[ワジェット]とボフ
中編。この短編集の後半を占めているメインイベント。
「地球外生命体が人間に恩恵を与える」系の話であり、序盤と後半に実地報告書の体で異星人の思考が述べられている。地球の言語に訳すのが難しいという体で、 翻訳者注釈 がついているのがなかなかユーモラスである。
本編の内容としては、下宿屋の住人たちがオーナー夫婦に扮した異星人たちによって立ち直ったり活路を開いたり決断ができるようになったりする、という話。
異星人は思考を押し付けるわけではなく、ただ彼らに質問を繰り返す。「そうなの?」とか「なぜ?」とか。それは自問自答に似ていて、ELIZAのようなカウンセリングにも似ている。
問題に対する結論はすでに彼らの中にあるにもかかわらず、引き出せていない。それを補助する形で質問するのだ。
海を失った男 (河出文庫) の「三の法則」に近い内容だが、それと比較すると住人たちそれぞれの葛藤が詳しく描かれている。法律と身分違いの恋愛とか、「死にたい」と思ってしまう根源の考え方(突き詰めるとセックスに興味を持てないことだった)とか。これらの 気付き の描写がとてもおもしろく興味深い。
例えば自分が(セックスに興味を持てない)非平均的な人間・少数派な人間であると苦しんでいたハルヴォーセンは以下のことに気づく。
点があまりにも広く分散しているので、平均的人間という直線上に実際にある点は無視できるということだった。それよりも非平均的人間のほうが何百万もたくさんいるのだ。
といったように、伏線が回収されるようなスッキリ感がある小説である。
最後に
ひとつのことを自問自答し、答えにたどり着くことは容易ではない。
でも活路を見出すのは自分自身なことにかわりはない。そう思う小説だった。
奇妙な味を味わう<夜の夢見の川>
「奇妙な味」は江戸川乱歩がつくった造語。(奇妙な味 - Wikipedia)
守備範囲は推理ジャンルのみならず、SFや怪奇モノにもわたる。ちなみに、奇想コレクションも奇妙な味。
そんなわけで「奇妙な味」アンソロジーである「夜の夢見の川」を読みました。
久々に読んだ創元推理文庫です。
- 作者: シオドア・スタージョン,G・K・チェスタトン他,中村融
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2017/04/28
- メディア: 文庫
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感想
前回に引き続きつぶやいたものを修正したものです。
- 麻酔
どうやってもホラーですありがとうございます。歯医者に現れるfate/zeroの雨生龍之介ですありがとうございます。あらすじが雨生龍之介で表せてしまう恐ろしさ。
調べてみるとこれは「厭な話」に当たるのかもしれない。胸くそ悪い気分になります。
- バラと手袋
幼き日、収集家の同級生と交換したオートバイのおもちゃ。大人になって急に欲しくなって仕方なくなった主人公は同級生のもとを尋ねる。
信じられるのはモノ、実在だけ。我々が最後に行き着く・執着する場所は昔手放したくだらないモノなのだ。
- お待ち
千と千尋の序盤みたいな、心がキリキリする感じの話。(厭な話にカテゴライズされると思われる)
見知らぬ町に迷い込んだ少女が「お待ち」という謎の慣習によって精神的に追い詰められる。少女の母親は「いい人と結婚するように」としばりつけていたのに、病気で療養した結果町の人々に洗脳されている。
追い詰められた少女はついに男を待ち続ける。。救いがない話。
- 終わりの始まり
13年前に死んだはずの母から電話がかかってくる。母が亡くなってから疎遠になった兄と共に、主人公は母の家へ赴く。
不思議な出来事によって、家族の絆が復活する。この短編集唯一の、ほっこりする話。
- ハイウェイ漂泊
ハイウェイに置き去りにされた車たち、乗っていたはずの人々はみな行方不明になっている。車はみな高級車、乗っていた人々はみな家族。
バックグラウンドにある暗い世界観、新人類的な存在。深読みできそうな、不思議な作品。
「ミーイズム」世代を象徴するライフスタイルSFの頃に書かれた話だそう。
- 銀の猟犬
都会から田舎に引っ越した家族、主人公は銀色の二匹の猟犬を見つける。二匹は彼女をみつめ、追い回す。そして悪夢を見る。
彼女の精神がゆっくりと狂っていく描写がすごく鬱。
悪夢の内容はアルテミスのメタファーらしい。そういうの分かるとさらに面白いのかもしれない。
- 心臓
読みたかったスタージョン!すごく短い、ショートショートです。
酒場で出会った女が、自分の身に起こった話をする形で話は進む。彼女が心臓の弱い男と恋に落ち、別れ……オチまですっかりキレイにまとまっている。
タイトルどおりでありながら、予想外の結末。凄い。さすがスタージョンである。
- アケロンの大騒動
ウェスタンな世界観。街に現れた男二人が決闘をし、町娘と結ばれるはずだった片方が亡くなるが、怪しい医者が現れ彼を蘇らせるが……。 ドタバタ劇のようにサクサク進む。
- 剣
怪奇小説。“わたしの初体験は試練でした”からはじまるのが非常にキャッチャー。 主人公が若い頃、剣を使った不思議なショーをみて、そのショーの演者の女と初体験を試みるが……
これこそ奇妙な味。女の正体はなんなのか、なぜ刺されても死なないのか。不思議で暗い雰囲気。
- 怒りの歩道──悪夢
こちらもショートショート。著者のG・K・チェスタトンは推理作家として有名らしい。
食堂にやってきた風変わりな男。彼はある日突然駅に続く街路が愛想をつかしたことを語る。
街路が来る日も来る日も駅に繋がってるとなぜそう思えるのか?道路はあなたのことをどう考えていると思うか?シンプルに面白い。
- イズリントンの犬
我が家の犬がしゃべるようになった、的な定番の作品。優雅な生活を送ってる家族が手に入れた犬はお手伝いさんによってしゃべるようになっていた。優雅な生活の裏にある秘密をその“言葉を話す”犬によってどうにかしようとするが……
英国の愛犬家精神と絡めてるのも面白い。
- 夜の夢見の川
『黄衣の王』をもとにした作品。結構有名な作品らしいので、元ネタを読んでた方が面白いのかなあという気持ちになった。
施設から偶然逃れられた女が、古風な女性に助けられ、悪夢か現実か幻覚かよく分からないものに悩まされる。少し訳がわからない雰囲気が奇妙な話だ。
メイド服やコルセットなどの服装描写が細かくて作者の性癖を感じた。
さいごに
奇妙な味、と一口に言ってもファンタジー・SF・グロ・胸糞・ほっこり、などなど多岐にわたるのでなかなか「このジャンルが好きです」とは言いにくいなあと感じました
感情がぐっちゃんぐっちゃんになるやつ、という括りではあるとは思うのですけど。
私は「厭な話」系は元気じゃないと読めないですね。鬱になりそう。
話を選出するアンソロジストも大変そうだ
幻想の未来世界<十月の旅人・刺青の男>
レイ・ブラッドベリの短編集2つの感想。
読んだのは十月の旅人・刺青の男。どちらも結構最近出版されたもの。
表紙がオシャレである。
- 作者: レイブラッドベリ,Ray Bradbury,小笠原豊樹
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2013/04/05
- メディア: 文庫
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- 作者: レイ・ブラッドベリ,伊藤典夫
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2016/04/07
- メディア: 文庫
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十月の旅人
今まで日本で日の目をみなかった作品を中心にまとめた短編集。
SFじゃなかったり、ブラッドベリぽくない作品が多い印象をおぼえた。
簡単な感想
- 休日
火星から故郷である地球の最後を見る。呆気ないほどの花火。
- 対象
レッテルを貼られると存在がそれに固定されてしまう宇宙人の話。 物語では宇宙人という設定だけど、人間ってレッテルを貼られて生きてくよねっていうテーマが感じられる。
レッテルを貼らないでくれ!と叫んでも誰も信じてくれない状況とか、染みる。
- 永遠と地球
ブラッドベリさん、文豪を登場人物にするの大好きシリーズ。 早世なトマスウルフを死ぬ間際に未来へ連れてきて、宇宙を舞台にした作品を書くように頼むという話。
過去は変えられない。けれど彼の墓には花束があり、絶えることは無いというオチが美しくて好きです。
- 過ぎ去りし日々
高度なループものっぽい挑戦的な作品。年老いた主人公は子供の時の自分を見、青年のときの自分を見る。クリスマス・キャロルへのリスペクトを感じる。
- すると岩が叫んだ
一番好き。欧米の白人が大戦によって滅亡し、熱帯雨林を旅する白人夫婦がだんだんと追い詰められていく。 ある意味で終末ものなのかもしれない。
白人は彼らにとって格好の憎悪の対象だった。だんだんとなんのために殴り合うのかわからなくなった。
夫婦はなにもかも奪われた。知らない人間だから奪うのだ。ひとりでも、知っている人がいたら。
仄暗い、救われない世界観が良い。
刺青の男
未来から来た老婆が彫った刺青。夜に動き出して物語を上映する。
短編それぞれ違うテーマ・世界を描いている。多種多様な物語。
簡単な感想
- 万華鏡
宇宙に散り散りに投げ出された船員たちの会話。主人公は死へ落ちていく中で生きてきた人生の“みすぼらしさ”とか、死の種類とか、そういった回想をする。
思い出してしまえば人生とは束の間の映画。刹那を感じさせる美しい物語。
- 形勢逆転
黒人しか住んでいない火星。その火星に白人の乗ったロケットがやってくる。
黒人たちは白人が黒人に行った差別と同じことを火星で繰り返そうと考える。しかし、地球は既に失われていることを知った彼らはやり直そうと誓う。テーマが分かりやすいし、なにより最後の1文が良い。
- 街道
道は歴史を映す鏡、そういうことですよね。通り過ぎる車によって、のどかな土地に住む主人公は世界を見る。
- その男
新天地を探す部隊がたどり着いた星。先住民が彼らを歓迎しないのはなぜかと聞けば、ちょうどその前日“その男”が現れたのだった。隊長は彼に追いつこうと出かけるが……
神頼みの前に、信じる心や、努力がないといけない。そういった皮肉を感じられる作品。
- 長雨
金星に不時着した部隊は太陽ドームを目指す。金星のやまない雨に追い詰められていく絶望感。
ただの長雨がこんなに恐ろしく描かれるとは。太陽賛歌とも言える作品。
- ロケット・マン
主人公の父親は宇宙を旅するロケット・マン。3ヶ月以上帰ってこなくて、帰ってきてもすぐに宇宙に行ってしまう。母親は、父は亡くなったと思うことにしているのだと言う。死んだらその星を恨んでしまうから。
前の作品とは逆に、太陽の恐ろしさを描いていて、対比がよい。
- 火の玉
新天地火星に信仰を広めようと向かった神父達。火星人は肉体から解放された火の玉のようであった。“あの方”なのであった。
火星と神父の組み合わせが斬新。
- 今夜限り世界が
これはやばい。
終末ものなのに、“心地よい破滅”のように彼らは終末を受け入れ、しずかに終わる。理想の終末もの。
- 亡命者たち
ブラッドベリ、文豪を登場人物にするの大好きシリーズ。
禁書になってしまったファンタジーものの本の作者達が、火星にいる。忘れられれば、読者が消えれば死んでしまうため、自分たちのために戦う。異能バトルものに発展しそうな世界観。
- 日付のない夜と朝
宇宙に出ると哲学的になってしまう。それは宇宙病。ヒチコックはいままでの人生、存在について疑問を抱き苦しむ。きのうの自分はきのう死んでいるから、ばらばらなのだという。
親友のクレメンズは彼を救おうとするが、努力は実らず、ついに宇宙に身投げする。上も下もない宇宙。哲学的。
- 狐と森
戦争のため、国民が厳しく統制された未来からタイムスリップしてきた夫婦は未来に連れ戻そうとする“捜索課”から逃げようとする。
トリッキーでアクション映画みたいな作風。
- 訪問者
病気で火星に隔離された人々。みな地球を恋しがる。そこに新しくやってきた青年はテレパシーで人に幻想をみせることができた。ニューヨークや懐かしき子供時代の景色。主人公は青年を独り占めしようとするが……
蜘蛛の糸のような話。一筋の希望によって人々が欲望を顕にする。希望は時に人を狂わせる。
- コンクリート・ミキサー
火星人が侵略のために地球に攻め込んだのに、地球人は商魂あふれる資本主義を発揮してきたというめちゃくちゃ皮肉がきいてる話。
素朴な魂はそういった利益を求める人々に“侵略”されてしまうのだ……
- マリオネット株式会社
自分とそっくりの“マリオネット”に嫌なことはやってもらおうとするけど、そうはいかない的な夫たちの話。
妻の愛が重いという悩みをある意味でマリオネットが解決しちゃう皮肉。
- 町
無生物の擬人化大好きシリーズ。町は住民の意思を継ぐ。夏の描写がノスタルジー。
- ゼロ・アワー
恐るべき子供たち、的な。火星人は、火星人の存在を信じる子供たちに侵略の一端を担わせる。 子供は親を愛していると思えば、次の瞬間には憎む存在なのだ。
- ロケット
お金持ちだけが乗れるロケット。
主人公はロケットで旅することを夢見る。しかし、持ってるお金は一人分のチケットしか買えない。
家族の誰かひとりが乗るとなると争いが起こってしまう。そう思った彼は家族で宇宙旅行に行く方法を思いつく。
最後にふさわしいほっこりした話。
最後に
暗くも美しい作風が楽しめるブラッドベリ。とても良かった。
「すると岩が叫んだ」「万華鏡」「今夜限り世界が」が好きです。
今回はツイッターのつぶやきをブログ用に修正する、というのを試してみました。
短編はこまめに感想を書いたほうが忘れないし、ちょうどいいかもしれない。
便宜的な記憶<パン屋再襲撃>
私は村上春樹をよく知らない。
そういう人間が書いた文章だと思って読んでほしい。
今回読んだのは「パン屋再襲撃」。
- 作者: 村上春樹
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2011/03/10
- メディア: 文庫
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著者の作品に初めて触れたのは、タイトル通りはじめての文学 村上春樹。それからも時々彼の短編を読むようになった。
何編かの短編を読んでわかったことは、村上春樹は小説たる小説を書く人であるということだ。
例えば、面接で「大学四年間の一番注力したことは?」と聞かれたとき、学生は「サークル活動」「ボランティア」「アルバイト」と答えるだろう。
続けて「理由は?」と問われれば「部長として云々」「困っている人々の助けとなりたかった云々」「接客業で人との関わりを云々」と答えるだろう。
ありきたりな答えながら、自分がいかに努力家か・素晴らしい人格者であるかなどなどを端的にわかりやすくアッピールするにはこれしかないのである。
ボランティア活動をしたと言われれば面接官は理由を聞くまでもなくボランタリーな人柄・経験を想像し、履歴書の情報を勝手に補強する。
このように最低限の情報を行き交いさせることで我々は効率的に働くことができる。
しかし、小説とはエンターテインメントだ。効率化と無縁であるべき場所だ。
だから、主人公がふと思い出した「パン屋を襲撃した」記憶からはじまっても何らおかしくない。
その記憶がさして重要な出来事じゃなかったとしても、主人公がそれについて語ることは不思議ではない。
思い出したことからはじまる「パン屋再襲撃」がどんな一夜だったのか、自己アッピールのように語る必要はない。感動的な話に仕立てる必要もない。
さぞ当たり前のことのように語ってもいい。そんなもんか、という脱力じみた語り口でも構わない。
読者は面接官ではない。
「読んだ結果、誠に残念ながら貴殿の採用を見送ることとなりました」などと返事を送る必要はない。(もちろん、感想を送ることが禁止されている訳ではない。) 読んだ物語をどう捉えようと、採用不採用どっちにしたって構わない。
筆者も読者もお互いに無責任でいられる自由さを、村上春樹の文章は思い出させた。
……というまえがきを書こうと思ったのはこのツイートをみたからである。
就活なんてするもんじゃないな pic.twitter.com/MEusgEiYop
— オコメンティ (@Okomenty) 2018年8月14日
模範解答に小説のようなものを感じてしまった人は私以外いないのだろうか?
(と思ったら案の定大喜利大会になっていた → 面接官「今日はどうやってここまで来ましたか?」の傑作回答17選 )
どの粒度で・どのように語るかによって、文章は全く異なるものになる。
小説をはじめとした創作物の面白いところは、重要度に依存した情報共有では決して得られない新鮮な情報が描かれているところなのかもしれない。
村上春樹の文章はそれが顕著な文章であるように思える。 ゆえに、人々を魅了し続けるのかもしれない。
簡単なあらすじ+感想
新婚二人が空腹で起き、夫がパン屋襲撃の話をし、だんだんと現実離れしていく過程が面白い。現実離れした展開なのに主人公の視点がやけにリアリティを帯びているのがより一層引き立てている用に思う。
- 象の消滅 :
町にいた象が消えてしまう。文字通りの消滅。主人公はその消滅がわかる前日、象と飼育員の身に起こった減少を目撃していた。
象と飼育員の関係、便宜的な世界、統一性。 度々登場するそれらがなにかを表しているような気がするのに、なにかは分からない、という気持ちになる。
同居する兄と妹、妹が結婚することになり、主人公の兄は婚約者と会う。
冗談ばかりのいい加減な主人公と、"ちゃんと"した妹。互いに干渉しないけれど、互いにある程度は分かっている関係が良い。 主人公の心の動きとか、考えても分からないことだらけだという考えとか、すごく良い。
この作品から、自分は「やれやれ」を意識するようになった。 主人公がやけに「やれやれ」と思う。 村上春樹らしさなのかもしれない。それはため息のようで、テンポ合わせのようなものなのかもしれない。やれやれ。
- 双子と沈んだ大陸 :
主人公が、以前一緒に暮らしていた双子を雑誌で目にする。双子のことを思い出す。沈んだ大陸の記憶は失われていた。
wikiを見る限り、設定が長編と共通するらしい。 (双子と沈んだ大陸 - Wikipedia))
双子の存在や夢の出来事など、仄暗い雰囲気。
主人公が日記をつける。メモと記憶を頼りに。タイトルの出来事がそのまま主人公の出来事に縮約されたような散文的なストーリーだった。
- ねじまき鳥と火曜日の女たち:
ねじまき鳥クロニクルの元ネタ、といったところか。
仕事をやめた主人公が、色んな女と会う。(やれやれ、となるような出来事に遭遇する)一日に一度、ねじまき鳥がやってくる。世界のネジを回すために。
印象的な出来事が、つながっていないのにつながっている。不思議な感覚。
最後に
あらすじじゃ伝えられない面白さを伝えるのは難しい。
案の定、有名な作者だと色んな解説・批評が書かれている。
そういう記事を読むと、どう捉えるのか、どう考えるのかが人それぞれ違って興味深い。
さようならを告げる物語<歌おう、感電するほどの喜びを!>
たまたま手にとった本が "アタリ" だったときの喜びったらこれ以上のものはない。
レイ・ブラッドベリの「歌おう、感電するほどの喜びを!」を読みました。
新しい文庫本なのですが、「キリマンジャロ・マシーン」と「歌おう、感電するほどの喜びを!」というふたつの本をあわせた短編集のようです。
「さようなら」の詩人
川本三郎による解説文のタイトルであり、ブラッドベリを表現するのにぴったりなフレーズ。
さよならを言うときは誰でも詩人になる
という解説で引用されている言葉が(どこ発祥かは不明だが)まったくそのとおりだなと。
物語のエッセンスとしての「別れ」。ブラッドベリの描く「さようなら」は次の未来へ進むための「さようなら」ではなく、ただただ現実に別れを告げている。
私はその独特の雰囲気にすっかり魅せられてしまった。詩的で、美しい物語だ。
簡単なあらすじメモ+感想
- キリマンジャロ・マシーン :
パパ・ヘミングウェイを敬愛する主人公が、ヘミングウェイとともにタイムマシンで過去へと向かう。
ストーリーとしては単純かもしれない。でも、主人公の心情や二人のやりとりに感情が揺すぶられる。古き良き時代、最上の日に思いを馳せて泣いてしまうのだ。
- お邸炎上 :
自由を祝うため、金持ちの家を燃やそうとする人々。家の主人と話してみたところ、家の中には貴重な絵画があることを知る。主人は家を燃やすこと自体は構わないらしいので、その絵画を引き取ることにしたのだが……?
とんちのきいた寓話のような話。
- 明日の子供 :
生まれた赤ん坊は異次元に取り残された。人間の目からは青いピラミッドにしかみえないが、赤ん坊はちゃんと生きている。見え方の問題。夫婦は赤ん坊と同じ場所に行くことを決める。
赤ん坊が青いピラミッドというだけで十分に狂気的な物語。夫婦が今いる次元と簡単に別れを告げる、その展開が余韻を残してくる。
- 女 :
海に漂う知性をもった"女性"。彼女は男が海に入るのを待っている。海辺にいる女性と"女性"の攻防戦のような話。
- 霊感雌鳥モーテル :
世界恐慌の最中、職を求め車を走らせる家族。養鶏場を併設したモーテルで、彼らは奇妙な卵を見る。その卵にはカルシウムである言葉が描かれていた。
職を探しているような切羽詰まった状況にも関わらず、家族の関係がうまくいっている。その理由が面白い。
たがいにほどよく尊敬の念を欠きあっている
ので、けんかのために集まる。不思議な関係。
- ゲティスバーグの風下に :
機械のリンカーンが暗殺者によって"殺された"。リンカーンは人間ではないし、殺されてはいない。暗殺者はなぜ殺そうと思ったのか、主人公はなぜ彼を放免したのか。不思議な話だ。
- われら川辺につどう :
しなびた通りの商店街が舞台。その近くで、新しく道路が開通する。そうすれば、この道は死ぬのだ。最後の一日を描いた作品。
道路の「さよなら」を表現した作品。人がいなければ道路は死ぬ。すごい好きだ。 最後の一日をどう過ごすか、どう感じるか。卒業式のような、最後の時間を大切に過ごそうと思えるようになる。
- 冷たい風、暖かい風 :
異国から来た観光客御一行を不審がる地元の人々。公園でじっとしていた御一行の目的は「葉の色が変わるのを眺めること」だった。彼らは夏から、冬を求めてやってきたのだ。
「北風と太陽」のような、寓話っぽい話。アイルランドのお国柄?風土?がうまく使われているのが良い。
- 夜のコレクト・コール :
火星に取り残された最後の一人。彼は孤独を紛らわすため、自分の声を録音し、電話をかけてくるように細工をしていた。
孤独の限界に挑む主人公に、感情を揺すぶられる。この物語もまた「さようなら」の物語だ。 地球に戻る他の人間にさようならを告げた老人は、ひとりぼっちにさようならを告げる。
- 新幽霊屋敷 :
資産家の女性が持つ素晴らしい屋敷の秘密。燃えた屋敷をそっくりそのまま作り直しても、元の古い屋敷とは違う。屋敷は古い人間を拒否し、排除しようとする。
新しく「古き良き」モノをつくることはできない。古いモノは置いていかれるしかないのか、という悲しい気持ちになる作品。
- 歌おう、感電するほどの喜びを! :
原題 "I sing the body electric!"から訳すセンスが素晴らしい。母親が亡くなった主人公のもとにやってきた"電子おばあさん"と家族が打ち解けるまでの物語。
"電子おばあさん"というのは乳母ロボット。主人公兄弟を世話するのはもちろん、彼らを正しい方向へと導く。おばあさんの語り口はロボットというより天啓のような、心理をついた優しい言葉。感動。
- お墓の引っ越し:
年老いた女性が、若い頃亡くなってしまった男性の墓を掘り起こす。男性は死んだときから年をとっていないが、彼女はすっかり年老いてしまっていた。しかし……
- ニコラス・ニックルビーの友はわが友 :
ある夏の日、少年のもとにやってきたチャールズ・ディケンズ。 (チャールズ・ディケンズ - Wikipedia)もちろん、チャールズ・ディケンズは既に死んでいるはずで、彼は偽物に違いない。それでも、少年は彼に魅せられる。
落ちこぼれの小説家がどれだけ努力したかを語る。努力しても実ることはなく、ついに"自分を殺した"ことを語る。瞬間精密記憶(フォトグラフィック・メモリー)によってチャールズ・ディケンズの著作を正確に語れるようになったことも。
自分を偽ることはきちがいじみているのか。成功できない人にこそ読んでほしい。そして、考えてほしい。
- 大力(だいりき) :
"大力"とよばれる男は、三十一にもかかわらず結婚と無縁でいつまでも子供のような生活を送っている。母親は咎めることも追及することもできない。
筋肉強い。現代だとそこまで不思議じゃない話なのがなんとも皮肉。
- ロールシャッハのシャツを着た男 :
ロールシャッハってなんのことかと思ったら、ロールシャッハ・テスト - Wikipediaというものがあるらしい。かつての偉大な精神医学者が、なぜ突然姿を消したかを語る。視覚の欠落・そして聴覚の欠落。彼が感じていた世界は全く正しくなかった。
ロールシャッハのシャツ。その柄が何に見えるか。その答えからわかることはなにか。ニューポートの海岸沿いのバス、という舞台が物語をより一層豊かにしてくれる。
- ヘンリー9世 :
すべてのグレートブリテンの人々が<島>を去る。夏へ移動する。残るひとり、ハリー。彼は変化を望まず、永遠の8月を拒んだ。
ブラッドベリの物語は、例えより良い未来・変化だとしても、それを拒否する人間を描いている。 それが"きちがい"じみているのかは分からない。間違っているとは思えないのだ。
- 火星の失われた都 :
火星人の残した都市を尋ねる一行。パニックSF映画でよくある、登場人物ひとりひとりがひどい目に合うアレ。 登場人物の性格や職業にあわせて合う災難は皮肉が効いてて良い。
- 救世主アポロ :
ポエム、というか詩である。SFだけど、賛美歌のような詩歌。
さいごに
さようならを言う。それは悲しいことかもしれない。それは心揺さぶられることかもしれない。
明るい未来を思い描きたい。前へと進まなくてはいけない。
でも、そんな期待や希望が重苦しい感じ、忘れたくなるときもある。
ブラッドベリの物語を読むと、ただただ、「さようなら」が愛おしくなる。過去に思いを馳せたくなる。
物語にすっかり魅せられた。好きになってしまった。
人々が平成最後の夏に魅せられる。「さようなら」に魅せられるのだと痛感した一冊だった。