PerceivE

映画・本の感想とかメモとか考察とか

幻想の未来世界<十月の旅人・刺青の男>

レイ・ブラッドベリの短編集2つの感想。

読んだのは十月の旅人・刺青の男。どちらも結構最近出版されたもの。

表紙がオシャレである。

十月の旅人

今まで日本で日の目をみなかった作品を中心にまとめた短編集。

SFじゃなかったり、ブラッドベリぽくない作品が多い印象をおぼえた。

簡単な感想

  • 休日

火星から故郷である地球の最後を見る。呆気ないほどの花火。

  • 対象

レッテルを貼られると存在がそれに固定されてしまう宇宙人の話。 物語では宇宙人という設定だけど、人間ってレッテルを貼られて生きてくよねっていうテーマが感じられる。

レッテルを貼らないでくれ!と叫んでも誰も信じてくれない状況とか、染みる。

  • 永遠と地球

ブラッドベリさん、文豪を登場人物にするの大好きシリーズ。 早世なトマスウルフを死ぬ間際に未来へ連れてきて、宇宙を舞台にした作品を書くように頼むという話。

過去は変えられない。けれど彼の墓には花束があり、絶えることは無いというオチが美しくて好きです。

  • 過ぎ去りし日々

高度なループものっぽい挑戦的な作品。年老いた主人公は子供の時の自分を見、青年のときの自分を見る。クリスマス・キャロルへのリスペクトを感じる。

  • すると岩が叫んだ

一番好き。欧米の白人が大戦によって滅亡し、熱帯雨林を旅する白人夫婦がだんだんと追い詰められていく。 ある意味で終末ものなのかもしれない。

白人は彼らにとって格好の憎悪の対象だった。だんだんとなんのために殴り合うのかわからなくなった。

夫婦はなにもかも奪われた。知らない人間だから奪うのだ。ひとりでも、知っている人がいたら。

仄暗い、救われない世界観が良い。

刺青の男

未来から来た老婆が彫った刺青。夜に動き出して物語を上映する。

短編それぞれ違うテーマ・世界を描いている。多種多様な物語。

簡単な感想

  • 万華鏡

宇宙に散り散りに投げ出された船員たちの会話。主人公は死へ落ちていく中で生きてきた人生の“みすぼらしさ”とか、死の種類とか、そういった回想をする。

思い出してしまえば人生とは束の間の映画。刹那を感じさせる美しい物語。

  • 形勢逆転

黒人しか住んでいない火星。その火星に白人の乗ったロケットがやってくる。

黒人たちは白人が黒人に行った差別と同じことを火星で繰り返そうと考える。しかし、地球は既に失われていることを知った彼らはやり直そうと誓う。テーマが分かりやすいし、なにより最後の1文が良い。

  • 街道

道は歴史を映す鏡、そういうことですよね。通り過ぎる車によって、のどかな土地に住む主人公は世界を見る。

  • その男

新天地を探す部隊がたどり着いた星。先住民が彼らを歓迎しないのはなぜかと聞けば、ちょうどその前日“その男”が現れたのだった。隊長は彼に追いつこうと出かけるが……

神頼みの前に、信じる心や、努力がないといけない。そういった皮肉を感じられる作品。

  • 長雨

金星に不時着した部隊は太陽ドームを目指す。金星のやまない雨に追い詰められていく絶望感。

ただの長雨がこんなに恐ろしく描かれるとは。太陽賛歌とも言える作品。

  • ロケット・マン

主人公の父親は宇宙を旅するロケット・マン。3ヶ月以上帰ってこなくて、帰ってきてもすぐに宇宙に行ってしまう。母親は、父は亡くなったと思うことにしているのだと言う。死んだらその星を恨んでしまうから。

前の作品とは逆に、太陽の恐ろしさを描いていて、対比がよい。

  • 火の玉

新天地火星に信仰を広めようと向かった神父達。火星人は肉体から解放された火の玉のようであった。“あの方”なのであった。

火星と神父の組み合わせが斬新。

  • 今夜限り世界が

これはやばい。

終末ものなのに、“心地よい破滅”のように彼らは終末を受け入れ、しずかに終わる。理想の終末もの。

  • 亡命者たち

ブラッドベリ、文豪を登場人物にするの大好きシリーズ。

禁書になってしまったファンタジーものの本の作者達が、火星にいる。忘れられれば、読者が消えれば死んでしまうため、自分たちのために戦う。異能バトルものに発展しそうな世界観。

  • 日付のない夜と朝

宇宙に出ると哲学的になってしまう。それは宇宙病。ヒチコックはいままでの人生、存在について疑問を抱き苦しむ。きのうの自分はきのう死んでいるから、ばらばらなのだという。

親友のクレメンズは彼を救おうとするが、努力は実らず、ついに宇宙に身投げする。上も下もない宇宙。哲学的。

  • 狐と森

戦争のため、国民が厳しく統制された未来からタイムスリップしてきた夫婦は未来に連れ戻そうとする“捜索課”から逃げようとする。

トリッキーでアクション映画みたいな作風。

  • 訪問者

病気で火星に隔離された人々。みな地球を恋しがる。そこに新しくやってきた青年はテレパシーで人に幻想をみせることができた。ニューヨークや懐かしき子供時代の景色。主人公は青年を独り占めしようとするが……

蜘蛛の糸のような話。一筋の希望によって人々が欲望を顕にする。希望は時に人を狂わせる。

火星人が侵略のために地球に攻め込んだのに、地球人は商魂あふれる資本主義を発揮してきたというめちゃくちゃ皮肉がきいてる話。

素朴な魂はそういった利益を求める人々に“侵略”されてしまうのだ……

  • マリオネット株式会社

自分とそっくりの“マリオネット”に嫌なことはやってもらおうとするけど、そうはいかない的な夫たちの話。

妻の愛が重いという悩みをある意味でマリオネットが解決しちゃう皮肉。

無生物の擬人化大好きシリーズ。町は住民の意思を継ぐ。夏の描写がノスタルジー

  • ゼロ・アワー

恐るべき子供たち、的な。火星人は、火星人の存在を信じる子供たちに侵略の一端を担わせる。 子供は親を愛していると思えば、次の瞬間には憎む存在なのだ。

  • ロケット

お金持ちだけが乗れるロケット。

主人公はロケットで旅することを夢見る。しかし、持ってるお金は一人分のチケットしか買えない。

家族の誰かひとりが乗るとなると争いが起こってしまう。そう思った彼は家族で宇宙旅行に行く方法を思いつく。

最後にふさわしいほっこりした話。

最後に

暗くも美しい作風が楽しめるブラッドベリ。とても良かった。

「すると岩が叫んだ」「万華鏡」「今夜限り世界が」が好きです。

今回はツイッターのつぶやきをブログ用に修正する、というのを試してみました。

短編はこまめに感想を書いたほうが忘れないし、ちょうどいいかもしれない。