PerceivE

映画・本の感想とかメモとか考察とか

読んだ本<あまたの星、宝冠のごとく>

定期的にインプットが不足してる気がして、そのたびに模索する。

今回は本を読みたくなって図書館へ。

選んだのは分厚くてインパクトのあるタイトル、あまたの星、宝冠のごとく

作者ジェイムズ・ティプトリー・ジュニアの作品「いっしょに生きよう」は👇のアンソロジーで読んだことがあった。

しかし、実は女性であることを隠して創作活動をしていたとか、海外ドラマの主人公みたいな経歴(アメリカ軍・CIA)だとか、そういうことは全く知らなかった。クセが強い人物だ。

そして読んでみると、これまたクセの強い、独特の世界を表現する作品ばかり。

「地球は蛇のごとくあらたに」なんかは一番やばくて、簡単に言えば"地球とセックスしたくて仕方ない少女"の狂った話。

そこらの"マニアック"なセイヘキとは比べ物にならない。すごく狂っている。それもまた文学。

「肉」は"そういう"単語・表現が全く出てこないのに、中盤あたりで物語の不条理な世界観が分かってしまう、理解してしまう自分が恐ろしくなる作品。

食肉が高級品となった世界。妊娠中絶を禁止された世界。貧しい女性はやむなく子供を養子縁組センターに預ける。

理解してしまう読者に対して、なにも知らない女性たちの描写が続く。 読んでて苦しくなるように、感情を揺さぶってくるのがズルい。


とまあ、クセの強い作品を挙げたが、他の作品は童話チックなものからファンタジーなものまで様々。 どれも読んでいてすごく新鮮な気持ちを味わえる。

自分が気に入った作品は「アングリ降臨」と「死のさなかにも生きてあり」。

「アングリ降臨」 は異星人とのファーストコンタクトもの。けれども、その異星人たちが連れている「神様」が地球人が信仰している(目に見えないはずの)神様にそっくり、という不思議な設定。 アングリはAngelから来た名前ってところがストーリーのミソ。

「死のさなかにも生きてあり」 は死後の世界を描いた作品。解説を読む限り(死期が近づく)作者自身の死生観を描いている、ともとれるようだが、それ抜きにしても面白い。主人公が「死のう」と思って本当に死ぬまでの導入部分がイカしていて好きだ。 天国だとか地獄を信じていない人たちが行き着く場所はどこだろう?という意外にも思いつかないシチュエーションをうまく描いている。


昨今ジェンダーについて様々議論がされている。ディプトリー・ジュニアの作品は作者の"思想"が伝わってくるものが多い印象を受けた。女性の苦しみとか、格差だとか。

今だからこそ、余計に深く考えさせられる作品になっているかもしれない。

小説とは、はっきりと伝えたいこと・主題が書いてあるわけではない。 だから、作者の思想が文章から感じられる作品は面白い。