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奇妙な味を味わう<夜の夢見の川>

「奇妙な味」は江戸川乱歩がつくった造語。(奇妙な味 - Wikipedia)

守備範囲は推理ジャンルのみならず、SFや怪奇モノにもわたる。ちなみに、奇想コレクションも奇妙な味。

そんなわけで「奇妙な味」アンソロジーである「夜の夢見の川」を読みました。

久々に読んだ創元推理文庫です。

感想

前回に引き続きつぶやいたものを修正したものです。

  • 麻酔

どうやってもホラーですありがとうございます。歯医者に現れるfate/zeroの雨生龍之介ですありがとうございます。あらすじが雨生龍之介で表せてしまう恐ろしさ。

調べてみるとこれは「厭な話」に当たるのかもしれない。胸くそ悪い気分になります。

  • バラと手袋

幼き日、収集家の同級生と交換したオートバイのおもちゃ。大人になって急に欲しくなって仕方なくなった主人公は同級生のもとを尋ねる。

信じられるのはモノ、実在だけ。我々が最後に行き着く・執着する場所は昔手放したくだらないモノなのだ。

  • お待ち

千と千尋の序盤みたいな、心がキリキリする感じの話。(厭な話にカテゴライズされると思われる)

見知らぬ町に迷い込んだ少女が「お待ち」という謎の慣習によって精神的に追い詰められる。少女の母親は「いい人と結婚するように」としばりつけていたのに、病気で療養した結果町の人々に洗脳されている。

追い詰められた少女はついに男を待ち続ける。。救いがない話。

  • 終わりの始まり

13年前に死んだはずの母から電話がかかってくる。母が亡くなってから疎遠になった兄と共に、主人公は母の家へ赴く。

不思議な出来事によって、家族の絆が復活する。この短編集唯一の、ほっこりする話。

  • ハイウェイ漂泊

ハイウェイに置き去りにされた車たち、乗っていたはずの人々はみな行方不明になっている。車はみな高級車、乗っていた人々はみな家族。

バックグラウンドにある暗い世界観、新人類的な存在。深読みできそうな、不思議な作品。

「ミーイズム」世代を象徴するライフスタイルSFの頃に書かれた話だそう。

  • 銀の猟犬

都会から田舎に引っ越した家族、主人公は銀色の二匹の猟犬を見つける。二匹は彼女をみつめ、追い回す。そして悪夢を見る。

彼女の精神がゆっくりと狂っていく描写がすごく鬱。

悪夢の内容はアルテミスのメタファーらしい。そういうの分かるとさらに面白いのかもしれない。

  • 心臓

読みたかったスタージョン!すごく短い、ショートショートです。

酒場で出会った女が、自分の身に起こった話をする形で話は進む。彼女が心臓の弱い男と恋に落ち、別れ……オチまですっかりキレイにまとまっている。

タイトルどおりでありながら、予想外の結末。凄い。さすがスタージョンである。

  • アケロンの大騒動

ウェスタンな世界観。街に現れた男二人が決闘をし、町娘と結ばれるはずだった片方が亡くなるが、怪しい医者が現れ彼を蘇らせるが……。 ドタバタ劇のようにサクサク進む。

怪奇小説。“わたしの初体験は試練でした”からはじまるのが非常にキャッチャー。 主人公が若い頃、剣を使った不思議なショーをみて、そのショーの演者の女と初体験を試みるが……

これこそ奇妙な味。女の正体はなんなのか、なぜ刺されても死なないのか。不思議で暗い雰囲気。

  • 怒りの歩道──悪夢

こちらもショートショート。著者のG・K・チェスタトンは推理作家として有名らしい。

食堂にやってきた風変わりな男。彼はある日突然駅に続く街路が愛想をつかしたことを語る。

街路が来る日も来る日も駅に繋がってるとなぜそう思えるのか?道路はあなたのことをどう考えていると思うか?シンプルに面白い。

  • イズリントンの犬

我が家の犬がしゃべるようになった、的な定番の作品。優雅な生活を送ってる家族が手に入れた犬はお手伝いさんによってしゃべるようになっていた。優雅な生活の裏にある秘密をその“言葉を話す”犬によってどうにかしようとするが……

英国の愛犬家精神と絡めてるのも面白い。

  • 夜の夢見の川

『黄衣の王』をもとにした作品。結構有名な作品らしいので、元ネタを読んでた方が面白いのかなあという気持ちになった。

施設から偶然逃れられた女が、古風な女性に助けられ、悪夢か現実か幻覚かよく分からないものに悩まされる。少し訳がわからない雰囲気が奇妙な話だ。

メイド服やコルセットなどの服装描写が細かくて作者の性癖を感じた。

さいごに

奇妙な味、と一口に言ってもファンタジー・SF・グロ・胸糞・ほっこり、などなど多岐にわたるのでなかなか「このジャンルが好きです」とは言いにくいなあと感じました

感情がぐっちゃんぐっちゃんになるやつ、という括りではあるとは思うのですけど。

私は「厭な話」系は元気じゃないと読めないですね。鬱になりそう。

話を選出するアンソロジストも大変そうだ