「乙女の港」がエモかった
ようやく図書館が開放されたので、数ヶ月ぶりに本を借りに行った。
開いてない間はKindle本を少しづつ消化していたが、購入する本となると再読本だったり、作家が偏ったりしてしまう。 そういう意味で、買うまでは行かないものの、偶然目について気になった本を読む機会を与えてくれる図書館は、ありがたい存在だと思う。
で、手に取ったのが「乙女の港」である。
- 作者:川端 康成
- 発売日: 2011/10/05
- メディア: 文庫
この題名+表紙で川端康成。これは手に取ってしまうでしょ。
今でこそアニメイラストの表紙になった文豪作品がよくみられるようになったものの、これは当時からこの作風だったと。 しかもこれ、「エス」を描いた作品です。
エスとは、特に戦前の、日本の少女・女学生同士の強い絆を描いた文学、または現実の友好関係。sisterの頭文字からきた隠語である。
いや、どういうこと? 情報量多くない? ノーベル文学賞を受賞した文豪が、少女向け雑誌で、「エス」小説書いてた??
もう読むしかないでしょ。 そういう訳で読みました。
川端康成がなんで「エス」題材の小説書いてるの?という疑問に関しては、解説に書いてあるので即解決。
草案は 中里恒子という、カトリック系の女学校出身の方が書かれたからなんですね。
逆にいうと、この小説は作者の経験に基づいて書かれたってことなんですよね。それに大御所作家が手を加えている。
なんだこの夢のコラボは。すごすぎか。
そして内容。
少女向けと侮ってはいけない。 すごいですよこれは。 エモい。
これを当時の少女たちの多くが愛読していたと考えると、昭和初期の女学生すげえって思います。
がっつりドロドロ三角関係
物語は、女学校に入学した主人公の三千子が2通のラブレター (という表現しか思いつかない) をもらうところからはじまります。
「エス」は姉役の上級生が妹役の下級生を指名するスタイルなんですね。 胸キュン少女漫画でよくみる、いきなり年上イケメンに告白される 普通の 女の子の図と似ていて面白い。
2通ともポエミーで情熱的な手紙なのですが (気品の高さがうかがえる)、 三千子は5年生の洋子さんを姉と慕うようになりつつ、 夏休みをきっかけに4年生の克子さんにも惹かれていきます。
克子さんが意外とガツガツくる姉御肌で、三千子さんが聖母のような姉なんですよね。 それに翻弄される主人公。三角関係としてド王道です。
「エス」は恋人関係と同じで、基本的に複数人と付き合っちゃダメなので、 横取りしようとする克子さんに、5年生が連名で警告したりしてて、すごく ガチ です。
エスは遊びじゃない (確信)。
「エス」というエモい関係性
いやもう恋人じゃん。
関係性としてほぼ恋人です。 おしとやか〜に恋人です。
一つ言えるのは、洋子(お姉さま)から一方的に告ってきたのに、三千子が序盤からメロメロです。
同時に、洋子も三千子が好きです。会いたくて震えるタイプの好きです。
うわ〜〜めちゃくちゃ共依存してる〜〜って思っちゃいましたね。流石に。
でも、洋子は年上としてしゃんとしなきゃ……と勉強とか慈善活動とか、これでもかというほど善人として生きようともがいています。
エモいですね。
洋子が時折みせる弱さ、感情を揺さぶるものがあります。
特に印象的なのは、物語の序盤、三千子が洋子を驚かせよう(甘えようと)と隠れていた場面の台詞です。 あまりにも動揺している様子の洋子をみた三千子は申し訳なくなって、姿を見せます。 そのあとの洋子の台詞が以下。
「私、今、三千子さんを捜しながら、とても悲しかったのよ。いつか、いつかね、三千子さんを、ほんとうにこんなにして、捜すんじゃないかって。ふっとそう思ったの。その時は、もう幾ら捜したって、三千子さんは見つからないのじゃないかって」
「ふっとそう思っただけよ。でも、あたしはどんなに遠くへだって、三千子さんの心を捜しに行ってよ、きっと。」
(P85~86)
お、重い……。 重いんだけど、洋子は不幸な境遇にあり、少女の知る世界において、三千子がどれだけ希望になっているのかがわかる……。
少女だからこそ言える台詞……。
エモい……。
そして三千子も三千子で重い。
夏休みの間、三千子は避暑地軽井沢で偶然克子に出会い、観光案内してもらったり、一緒に出かけるようになります。 この克子がすごいガツガツくるタイプで、洋子がいないのをいいことに、三千子にアピールしまくります。
それに順応していく自分に対して、三千子はめちゃくちゃ罪悪感持っちゃうんですよね。
牧師様に懺悔しようか考えるレベルに。
うーん、重い。
ちなみに克子が悪役っぽくなっているかといえばそうではなくて、軽井沢にいる外人と日本人を比べて、日本人も全然劣っているわけではないと主張していて、結構先進的でグローバルな女性として描かれています。 なかなか時代を先取っている。
おわりに
そんなこんなで「乙女の港」、非常にエモい作品でした。 (全然語彙力がない。主人公たちの書く手紙の表現力が羨ましい。)
学生同士の期間限定の擬似(?)恋愛だからこそ、儚く情熱的で美しく見えるのかもしれません。 この小説が少女たちの間で流行してた時代に思いを馳せてしまいます。すごい。
読んでよかった。