自問自答のテンプレ<[ウィジェット]と[ワジェット]とボフ>
スタージョン・奇想コレクションの「[ウィジェット]と[ワジェット]とボフ」を読みました。
[ウィジェット]と[ワジェット]とボフ (奇想コレクション)
- 作者: シオドアスタージョン,若島正,Theodore Sturgeon
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
- 発売日: 2007/11
- メディア: 単行本
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最近メモばかりしてブログ更新してなかったのですが、スタージョンということでメモ代わりにブログ書くことにしました。
スタージョンの物語のタイプ
編者あとがきにも記載の通り、スタージョンは同じテーマを色々な物語で適用している。悪く言えば同じネタを使いまわしている。
例えば、
- 登場人物が「自分は普通の人間ではない」と感じているという葛藤。
- 自分が何者であるかという疑問。
- 地球外生命体が人間に思わぬ恩恵を与える話。
- ブルドーザー。
これらがスタージョンの作風を表している、と言えるわけではないが、作者の根っこにある経験・考えが垣間見えて面白い。
感想
- 帰り道
家出した少年が、街を出て戻ってきた男性たちの様々な人生を聞く。成功した男、放浪する男。どれも一長一短。
結局、彼は家出せずに家へと戻る。
外に出たいという衝動が青春っぽい雰囲気で、アメリカ映画のような印象を持った。
- 午砲
普通小説。
所謂負け組な主人公が、バーで素敵な女性に会って一瞬浮かれるものの、強そうな男性が同伴してたというベタな展開。一度は逃げるものの、ふたたびバーへと復讐を果たしに向かう。
午砲のエピソードなど、スタージョンっぽい不思議な後味がある物語。
- 必要
今回一番気に入った作品。一番スタージョン特有のトリッキーさとセンスオブワンダーに溢れていた作品。
妻に逃げられた男の前に現れた、人間が必要としているものが視える男となんでも揃えてる〈よろずあきなひ屋〉の店主。
男は妻が帰ってきて「欲しい」が、妻には介抱できる人が「必要」だった。必要なものと欲しいものの違いとはなにか。
視える男の苦悩とか、よろずあきなひ屋との奇妙な関係とか、スッキリするハッピーエンドとか、全部すごい。すごいです。
- 解除反応
スタージョンのブルドーザー小説シリーズ。
記憶が不明瞭になってしまった主人公が意識を取り戻そうと目の前に現れた男に質問し、自問自答する。
ヴィーナス・プラスX (未来の文学) の序盤と似たものを感じた。自分が何者であるかという疑問を、自分の記憶を辿ることで解決しようとするのだ。
スタージョンにとって自己とは地続きで記憶に依存している、そういうことなのだろうか。
- 火星人と脳なし
コメディタッチなSF。
火星の電波を受信しようと必死になった父親のエピソード、そのあとに語られる主人公が出会ったとびっきりの女性の話。全く関係ないように思える二者が思いがけずつながっている。
主人公は「気が合う」と思った女性は、いつだって主人公に同意し、いつだったそれとなく話をぼかす「脳なし」だった。 (ELIZA - Wikipedia みたいな発話しかしないというわけだ)
しかしながら、実は彼女は火星の電波を受信しており、実は……とどんでん返しなラストで終わる。
- [ウィジェット]と[ワジェット]とボフ
中編。この短編集の後半を占めているメインイベント。
「地球外生命体が人間に恩恵を与える」系の話であり、序盤と後半に実地報告書の体で異星人の思考が述べられている。地球の言語に訳すのが難しいという体で、 翻訳者注釈 がついているのがなかなかユーモラスである。
本編の内容としては、下宿屋の住人たちがオーナー夫婦に扮した異星人たちによって立ち直ったり活路を開いたり決断ができるようになったりする、という話。
異星人は思考を押し付けるわけではなく、ただ彼らに質問を繰り返す。「そうなの?」とか「なぜ?」とか。それは自問自答に似ていて、ELIZAのようなカウンセリングにも似ている。
問題に対する結論はすでに彼らの中にあるにもかかわらず、引き出せていない。それを補助する形で質問するのだ。
海を失った男 (河出文庫) の「三の法則」に近い内容だが、それと比較すると住人たちそれぞれの葛藤が詳しく描かれている。法律と身分違いの恋愛とか、「死にたい」と思ってしまう根源の考え方(突き詰めるとセックスに興味を持てないことだった)とか。これらの 気付き の描写がとてもおもしろく興味深い。
例えば自分が(セックスに興味を持てない)非平均的な人間・少数派な人間であると苦しんでいたハルヴォーセンは以下のことに気づく。
点があまりにも広く分散しているので、平均的人間という直線上に実際にある点は無視できるということだった。それよりも非平均的人間のほうが何百万もたくさんいるのだ。
といったように、伏線が回収されるようなスッキリ感がある小説である。
最後に
ひとつのことを自問自答し、答えにたどり着くことは容易ではない。
でも活路を見出すのは自分自身なことにかわりはない。そう思う小説だった。