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二つを結ぶアスタ<アステリズムに花束を>

SFと百合、思えばどちらのジャンルも定義は曖昧なのではないか。

アステリズムに花束を 百合SFアンソロジー (ハヤカワ文庫JA)

アステリズムに花束を 百合SFアンソロジー (ハヤカワ文庫JA)

SFはScience Fiction/Speculative Fiction/すこし・ふしぎの略であり、ジャンルの定義に対する決着は永遠の命題ともいえる。

百合も、「女性同士の関係を扱うもの」という曖昧な共通認識で今日まで至っている(多分)。

そんな曖昧なジャンルと曖昧なジャンルの組み合わせが「百合SF」。そのアンソロジーがこの度発売されたので読んでみた。

百合とSF

最初に断っておくと、自分は「百合に生かされている」人間ではないし、百合だろうとBLだろうとノマカプだろうとなんでもいける口である。

しかしながら、SFに百合を組み合わせることは、自然と「人と人との関係性」がフォーカスされるSFを生み出している気がした。

同時に、百合にSFを組み合わせることは、一般的な百合に対するイメージ(学園モノ・女学校 など)をアップデートする新たなヴィジョンである気がした。

それゆえに、百合SFは盛り上がっているのだな、と読み終えて感じた。

ざっくり感想

  • 「キミノスケープ」「幽世知能」

    • この2作品は対談記事 でお題が決まって書いた作品であることに先ほど気づいた。
    • 前者は 観測できない百合 、 後者は 関数百合 というお題。なるほど、そう回収したか、という納得がある。
    • 「キミノスケープ」は恋愛SFの王道(※個人の感想)である きみとぼくしかいないユートピア 的な世界観にも関わらず、登場人物は"あなた" ひとりだけ。
    • 「幽世知能」は理解し合えない二人の百合。入力すれば出力される幽世知能と理由と理解を巡る二人の関係が描かれている。
  • ピロウトーク

    • 唯一の漫画作品。
    • 先輩に片思いする後輩がひたすら切ない。
  • 四十九日恋文

    • 死んだ人とメールでやりとりできる、日にちと文字数の制限付きで。という設定が切なくなるしかなくて、発想の勝利だなと思わせる作品。
  • 彼岸花

    • 王道の女学校百合だけど、吸血鬼の要素とスチームパンク的な様々なガジェットが加わることで、広がりが生まれる。
    • 年下の娘が年上のお姉様をお慕いするという王道の構図はやはり美しいのである。
  • 月と怪物

    • ソビエト百合。
    • 読んでみると唸る。ソビエト社会主義・冷戦の歴史背景をうまく組み合わせた物語である。
    • 同性愛が違法であったという歴史は辛い歴史ではあるが、物語のモチーフとして強い障壁として機能していて、その機能をうまく操っている物語が自分は好きだ。
  • 海の双翼

    • 百合だからといって人間同士とは限らない。
    • 鳥人との意思疎通、それを見守り時に嫉妬する人形の三角関係。
  • 色のない緑

    • Colorless green ideas sleep furiously というチョムスキーがタイトルが元ネタのSF。
    • 主人公の文系女子と理系女子の接点は言語、翻訳。機械翻訳によって人間はAIに仕事は奪われてしまうのか、という現代の問題に関わっているネタ。
    • 二人の関係性は百合といえば百合なのだが、個人的には「これは百合SFです」って出されて読むよりも、単純にSFとして読んで、最後まで読んだ結果「これは百合だった」って言いたい雰囲気の小説。つまり、ちょうどいいバランスです。
  • ツインスター・サイクロン・ランナウェイ

    • 日本のSF読まない自分でも、よく聞く名前のSF作家、小川一水氏の作品。
    • 最後に思いっきりラノベのような疾走感のある、ラノベっぽいごりごりのスペースSF。
    • 二人で船を操縦して漁をする感じがごりごりのスペースSF。協力したり、最終的に両思いになったり、ごりごりにハッピー百合。

おわりに

時間SFやら恋愛SFやら、SFはいろんな側面をみせてくれる。広がりがある。

二人の「関係」を描くSFとして、百合SFがもっと読めたら嬉しいと思う。