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夏のSF<逆光の夏>

猛暑が続く毎日、夏っぽいSFを読みました。

ジョン・ヴァーリイ「逆光の夏」

実は随分前に買って積読したままでした。ようやく読み終わった。

感想

この短編集はすごい。有名作品を集めた短編集なのかな。

ジョン・ヴァーリイという作家の世界観が伝わる作品でした。

  • 逆行の夏

表題作。水星に住む主人公のもとにクローンの姉がやってくる。初っ端から独自の世界観が全開で驚いた。表紙とイメージが違う

《八世界》(The Eight World) とよばれる未来史に基づいた世界観。人間が太陽系の惑星に移住していたり、遺伝子操作してたり。新鮮。

逆光の夏では、主人公の出生の秘密が鮮やかなボーイ・ミーツ・ガールのなかで語られます。水星が半分はずっと太陽の方を向いているわけではない、という事実をうまく扱ってるのがいいですね。

表題作と同じ世界観、こちらは冥王星が舞台。

自然豊かな海で二度目の少年時代を過ごす主人公ピリ。最後まで読むとタイトルがしっくりくる。 大人から子供に戻ることができても、ほんとうの意味で子供ではない、複雑な状況ゆえの葛藤が面白い。

蛇足: おなじタイトルでドラマが放映されていたようで、すごく気になる。今旬の田中圭さんが主演。さよならロビンソンクルーソー - Wikipedia

  • バービーはなぜ殺される

これは発想の勝利だと思った作品。

バービーというのはバービー人形のこと。量産品のように、みんなバービーの姿形をしていれば平等じゃない、というやばい新興宗教で起こった殺人事件。 殺されたバービーも、殺したバービーも、他のバービーも、全員同じ姿形で、差異が存在しない。犯人は誰だ?

こういうヤバイSF設定にミステリー要素がぴったり合っていた。映画ブレードランナーのようなハラハラさせる展開で面白い。

  • 残像

今回一番キタ作品。最初のコミューンのくだりからはじまり、どういう主題かわからないまま読み進め、気がつくとラストまで一気に読んでしまった。

それぞれが独自のコミュニティーを築き上げている中、ヘレン・ケラーのような視覚と聴覚の重複障害者たちだけで暮らすコミューンが存在した。

目も耳も聞こえない彼らは独自のボディランゲージを持っていて、独自の、彼らしか「視えない」ものとつながっていた。

この独自の世界に出会い、衝撃を受ける主人公の心情。ある意味でファーストコンタクトもののような感覚を覚えたし、ラストの展開は考えさせられる。

削ぎ落とされた機能は、マイナスとは限らない……

  • ブルー・シャンペン

愛とか恋とかを知らない主人公が、黄金を身にまとったセレブ美女に出会うことで変わっていく話。

といえばSFっぽさはないが、黄金のジプシーの秘密とか、彼女の夢とか、舞台となる観光地「バブル」の鮮やかな情景との親和性が良い。ふたりとも不名誉な二つ名を持っているとかも。

「さよなら〜」でも思ったけど、ヒロインじゃない方の女性キャラクターが(精神的・肉体的に)強くてすごく好きだな。

ブルー・シャンペンだとアンナという女性がそれにあたる。彼女は主人公のセフレに「なってあげてた」んだけど、主人公の未熟さを見抜いてたし、状況によってアドバイスしたりしなかったり、人生設計の軸がちゃんとしてるところがすごく好感を持てた。

  • PRESS ENTER ■ 

サスペンスのような、アメリカの陰謀論を扱ったような作品だった。

コンピューターを使えばなんでもできることが恐ろしい、という気持ちにさせられる。

とはいえヒロイン(?)のキャラが濃い。アジア系の巨乳のギークである。あと壮絶な過去持ち。ギャルゲーでもそんな要素モリモリしない。

そればかり気になってしまった自分とはなんなのか。。

総括

  • 夏要素

意外と海を扱う作品が多かった。

恋に落ちた二人が海を泳ぐ、というのはなんとも美しい描写だな、とも思う。

  • 障害

《八世界》の世界をはじめとして、当たり前のように遺伝子操作とか見た目を変化させる描写・世界観である。

障害を持っていたり、何かが欠けていたり。

それゆえに残酷な描写も、妖艶な描写もある。

SFならではのウマミがつまった作品だった。

怜悧で官能的なヴィジョンがあふれる6篇

とBOOKデータベースの紹介に書いてあるけど、まさにそのとおりである。この内容文書いた人天才だな。