卒業<関ジャニ∞のはなし>
注意:この記事はジャニオタのポエムです
自動販売機の広告にはこう書かれていた。
おとなには、卒業がない。
いつ始めても、
いつまでやっててもいいってことだ。
おとなになると、卒業することがなくなる。
学生ではないのはもちろん、組織に所属すれば卒業ではなく退職になる。
そこに卒業のようなノスタルジアは存在しない。青い春は存在しない。
渋谷すばる最後の関ジャムに、卒業をみた。
関ジャニ∞、7人として最後の演奏。それぞれの気持ちが痛いほど伝わった。
悲しさこそあれど、素晴らしい瞬間だった。 長年連れ添ったメンバーを送り出す瞬間だった。
卒業だった。
アイドルって、ずっと続くと思っていないか?永遠だと思っていないか?
ファンも、ときには本人たちも、そう思っているんじゃないだろうか。
違うんだ。いつまでやっててもいいだけなんだ。
いつ終わってもいいものなんじゃないか、本当は。
広告はこう続く。
甘くない。
引きずらない。
もう、青くない。
関ジャニ∞は6人として続く。
彼らの青春を、彼らが走り続ける限り、見届けたい。
と、ここまで書いて、"酷いポエムだな"と公開するのを躊躇っていたらレンジャー(ジャニーズウェブの連載)が更新されていた。
錦戸さんの連載がすごくデジャヴだったので、こうなったらデジャブする形で書き足す。
「卒業」じゃない「中退」だ、という願いはすごく納得した。
「中退」ってネガティブなイメージで使われる言葉だけれども、敷かれた道じゃない方を選ぶ、という意味ではぴったりだし、挑戦という意味合いが感じられた。
挑戦。
永遠じゃなくても、いつまで続くかわからなくても、構わないから。
札幌、楽しみにしています!!!!
"良いストーリー"とはなにか<紙の動物園について思ったこと>
ケン・リュウの「紙の動物園」読みました。
という感想を書くつもりが、短編1つについてとりあげた考察みたいな文章を書いてしまった。
- 作者: ケンリュウ
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2015/05/29
- メディア: Kindle版
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そもそも、この作品を知ったきっかけはtogetterのSF小説とプロットについて - Togetterという記事。
作品本編を読む前に批判的な記事を読んでしまったため、しばらく読む気はなかった。(批評は本編読んでから読むべきであったと後悔した)
先入観がある状態で読みたくなかったのだ。しかしながら、数々の作品賞を受賞した作品なのでずっと気になっていた。
紙の動物園のモヤモヤ
最初に収録されている表題作「紙の動物園」をまず読んだ。
……
……確かに↑で書かれている批判納得だなあ!
X年越しに納得してしまった。
リンクを開いていない人向けにどういう批判か?を簡単に引用する。(がっつりネタバレなので注意)
続きを読む踏み台としての狂気<さあ、気ちがいになりなさい>
「さあ、気ちがいになりなさい」というインパクト抜群の本を読みました。
- 作者: フレドリックブラウン,Fredric Brown,星新一
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2016/10/21
- メディア: 新書
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推理小説ばかり読んでいた私が、SFを読むようになったのは星新一のせいだと思う。 「せい」なんて被害者的な表現が正しいかは微妙だが、最近は短編SFばかり読んでいるのは事実。
とにかく、図書館で星新一を借りて読んでを繰り返していた。図書館所蔵の文庫は大抵読み切ったと思う。それでもいまだ、読んでない作品に出会ってしまうのだから恐ろしい。
星新一のショートショートは読みやすく、オチがついてて、それでいて考えさせられる。 しかも、あんな作品量にも関わらずどの作品もぜんぜん違うストーリーなのだ。そして、一貫して星新一なのだ。
なぜこんなに星新一のことを書いているかといえば、この本は星新一の翻訳によるものだからだ。 翻訳者による作品の違いがわかるような人間ではないが、星新一の文体はすごく読みやすかった。この作品にマッチしていた。
前置きが長くなってしまったが、以下感想。
技巧
それぞれの作品には長さの違いがあれども、どの作品も「オチ」がきれいについている。これはすごい。
物語として捻りが効いている。こればかりは実際に読んでみないことには味わえない感覚だ。「こういう面白いネタ」を面白く、ストーリーとして展開していることに感動する。あらすじも、本文も面白い。
ノック は二段階にオチがついている、逆さ落ちの作品。ノアの方舟のSF版みたいな世界観でありながら、物語はそれとは全く違う方向に向かうのだから面白い。
- (タイトルと内容から、ノックの音が (新潮文庫)を思い出した)
ユーディーの法則 も同じくとんでもないストーリー。「私」の友人がすごい発明をしたと思いきや、そうじゃないと思いきや……。これぞエンターテインメント。予想ができない。
狂気
狂気を踏み台として彼自信の逆説的な世界を築いている
と訳者あとがきにも述べられている通り、狂気を扱った作品が多い。 (また、「狂気を扱う作品は日本ではまだ少なく、今後増えるだろう」とも書いてある。これは本当にそのとおりで、最近はドラマ・映画にもそういった作品が散見される。ちなみにこのあとがきは1962年に書かれたもの。)
狂気と言っても、読者の恐怖感を煽るサイコスリラーのようなものではなく「分かると怖い話」的な静かな狂気である。一番怖いのは人間だね、という考え方はホラーのみならずSFでも活躍するというものだ。(多分)
最初に載っている みどりの星へ や ぶっそうなやつら なんかはそういった狂気をオチとしてうまく使った作品。ショートショートのウマミが詰まっている。
ちなみに、みどりの星へと 電獣ヴァヴェリ は物悲しさと余韻があって良いなと思った。とんでも設定が巧いだけではないのだ。
Go Mad
巻末には注意書きのように
差別表現として好ましくない用語が使用されています。……
なんて書かれている。時代だなあとしみじみする。(作品自体は1940~50年のもの)
表題作さあ、気ちがいになりなさいはそういう用語が含まれた作品なのかもしれない。主人公は精神病なのか、そうではないのか……。が主軸になると思いきや、やはりそうはならない。
すごいの一言。
おわりに
すごいからまず読んで!と言いたくなるような、 ショートショートの面白さが詰まった短編集だった。
物語は読んでこそだな。
インドとSF<サイバラバード・デイズ>
サイバラバード・デイズを読みました。近未来インドを描いた中編の連作。
- 作者: イアンマクドナルド,Ian McDonald,下楠昌哉,中村仁美
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2012/04/01
- メディア: 単行本
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イアン・マクドナルドという作家が好きだ!と思ったのは、(これまた)SFマガジン700で読んだ「耳を澄まして」という作品がきっかけだ。
終わろうとする世界・ナノテク・エンパスといったSF要素がきれいにコラボレーションし、ラストで一気に引き込まれる。どんどん明らかになる事実に対して、ラストできれいに収まる、物語の流れが本当にすごい。
私の好きな短編のひとつだ。
- 作者: アーサー・C・クラーク,ロバート・シェクリイ,ジョージ・R・R・マーティン,ラリイ・ニーヴン,ブルース・スターリング,ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア,イアン・マクドナルド,グレッグ・イーガン,アーシュラ・K・ル・グィン,コニー・ウィリス,パオロ・バチガルピ,テッド・チャン,山岸真,小隅黎,中村融,酒井昭伸,小川隆,伊藤典夫,古沢嘉通,小尾芙佐,大森望,中原尚哉
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2014/05/23
- メディア: 文庫
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そういう訳でずっと他作品を読もうと思っていたものの、出版されているものは長編ばかりで、短編集はない。
参考:http://ameqlist.com/sfm/mcdo_i.htm
私は基本的に短編のSFが好きなのであきらめていた。長編は途中で飽きてしまう。
しかし、サイバラバード・デイズは中編小説集。これならば読めるのではないか、とチャレンジしてみた。
以下、感想。
インドとSF
まず言いたいのは、「インドSFの世界観すごい!」ということだ。
ブレードランナーに代表されるように、日本とSFは意外にもマッチする。 ごちゃごちゃしてて、少し荒廃的で、新しい。サイバーパンクを彷彿とさせるのだと思う。欧米の人々にとっては東洋という見知らぬ土地が、なおさら異世界の雰囲気を醸し出すのだろう。
Twitter より
一方でインドも似たような要素を持ち合わせている。
IT化が一気に加速してることや、都市部の人口密度が高いこと。色んな宗教の人々が集まり、それぞれ異なる神が存在している。
そんな訳で、この本で描かれるインドは古くからの文化を残しながらもAI・ロボット・ナノテクといった技術が発展した世界だ。
- ガンジス川で沐浴する人がいる一方で、ロボットたちが戦争をしている。
- AIが場所に関係なく活動する一方で、人々はファトファト(トゥクトゥク的な乗り物?)で移動する
- 遺伝子操作で子供の性別が決められる一方で、結婚におけるカースト制度は根強く残っている
そんな世界観で描かれる物語は、SFでありながらオリエンタルで独特だ。
他に出版されている長編の設定を引き継いでいるらしく、ドラマの登場人物を演じるAIやヌートという第三の性別など独自の世界観で描かれている。
それぞれ感想
- サンジーヴとロボット戦士
ロボット戦士、というのはどうやら日本のロボットアニメのようなロボットを描いている様子。(日本のアニメみたいな、という描写を本編ではちょこちょこしている)
主人公はロボットを操縦する少年たちに憧れているけれど、実際のところ彼らは薬物で無理やり戦闘に適応させられた少年兵となんらかわらない、というのがなんとも皮肉。戦争なんて華やかでかっこいいものではない。
- カイル、川へ行く
今回一番好きだなと思った作品。
インドの外から、親の仕事の都合で来た主人公が、ひょんなことから家出して、地元の友人とガンジス川に行く。
たったそれだけの物語だけれど、何も知らない少年が、ガンジス川を、インドを、はじめてその景色をみた瞬間が、いかに忘れられない出来事になるかは計り知れない。
世界が一気に広がる瞬間ってこんなにも美しい。青春だなと思った。
- 暗殺者
二つの一族の血を血で争う抗争、一族で最後の一人になってしまった娘が復讐のためだけに生きる。
少女が教養を磨いていくサクセスストーリーかと思えば、やっぱりSFだった、みたいなSF。
- 花嫁募集中
この作品の設定では、生まれる前の子供に遺伝子操作を行えるようになった結果、男女比率で男性が圧倒的に多くなり、結婚がすごく難しくなっている。
主人公が結婚のため、専用の紳士AIと一緒に頑張る。↑の作品と同じで、人間が頑張るストーリーかと思えば、やっぱりSFだった。みたいなSFである。 作品全体通して結婚への当たりが強い。
- 小さき女神
生き神として選ばれた少女が翻弄される話。
これまた結婚が物語のターニングポイントだったりする。元女神と結婚するってすごくファンタジックだと思うのだが、カースト制度的には不可侵、つまり触れたくない身分。
女神として生きる素質は、自分を自分から解離できるかどうか。人が死んでもなんとも思わないような、精神病患者ぎりぎりのところで存在している。女神といえども少女で、世話係は親のように彼女に接していたり、成長して女神ではなくなることを恐れているのが面白い。神性と処女性が一致しているのはどの文化も同じなんだろうか。
- ジンの花嫁
ジンというのはアラブ世界における精霊。日本の八百万の神みたいなものだろう。
形のなき人間より優れた存在・AIはまるでジンみたいだね、というタイトルの付け方がいい。そういうわけで、この中編は外交官AIと結婚することになったダンサーが主人公の話だ。(また結婚の話かよ)
AIは複製可能で仕事中も彼女に会いにこれるし、いつでも一緒にいることができる。でも触れることはできない。子供もできない。
今までの固定概念と比較して、嫉妬したり苦しんだりする主人公。まじか、近未来な設定なのにそこ苦しむのか。主人公はスラム上がりからセレブまで成り上がった女性だから、ってのもあるかもしれないが、ちょっとしっくりこない終わり方だ。
- ヴィシュヌと猫のサーカス
これまた独自設定。遺伝子操作され、優れた能力と人の二倍の寿命を手に入れるが、体の成長が人の半分というブラーミン。そのブラーミンであるヴィシュヌの視点で語られる物語。
彼の半生が語られることで今までの設定の総括というか、全部がつまっている。
ゆっくり成長していく彼に反して世界は急速に発展していく。意識をアップロードし、すべてのネットワークとつながるポストヒューマンの存在。ブラーミンのように生まれる前からいじくる必要がない、新しい世代。
生まれた当初はマンガに描かれ、物語の上ではヒーローだった彼は、期待された将来図みたいな、ひかれたレールの上を歩くことをやめていた。世界の危機に直面し彼がヒーローになるのは胸熱だね。
おわりに
読んでいて思ったのだが、イアン・マクドナルドの作品は唐突に場面転換したり、視点が別の人に切り替わったりするよね。(一応改行しているけど)
過去未来と流れが連続していないのに連続しているかのような感じ。良くも悪くも不思議な感覚を味わう。
ところどころ書き方が脚本っぽいなあと思った。独特の作風だ。翻訳するの大変だろうな。
- おわりのおわりに インド人の名前って読むうえでめっちゃ頭使う。似てるけど似てない名前がいっぱいでてくる。
そして自分は長い物語読むのは苦手だと、改めて思い知った。おとなしく、次は短編集を読みます。
ボーイミーツガールは少女によって成立する<たんぽぽ娘>
日本人の好きなSFが欧米のそれとは全く異なる、という話がSF小説の解説・あとがきではよくされている印象がある。 そこでいつも挙げられるのが「夏への扉」、そして「たんぽぽ娘」。
共通する要素。そう、日本人はロマンティックなSF大好きですよ!と言いたいわけだ。
- 作者: ロバート・F・ヤング,伊藤典夫
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
- 発売日: 2015/01/07
- メディア: 文庫
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かく言う私も恋愛要素があるSFは結構好きだ。エターナル・サンシャインとか(映画だけど)。
以下、感想。
(蛇足)編者あとがきのナゾ
自分は後ろページのあとがきや解説から読んでしまう人間だ。 略歴や解説で作風をつかんでから読みたい人間だ。
で、いつものごとくあとがきから読んだのだが。
ロバート・ヤング、短編は面白いけど、長編はイマイチ……みたいな感想が書かれていた。
いらんがなその情報!これから自分は短編読むんですよ!
この短編集が面白かったからって長編小説に期待しすぎちゃいけないよ、という注意喚起なのかもしれないが、こういうあとがきはやめてほしいなと思う次第。あと作品で「少女愛」が顕著になってるとか軽く批判しているのもナゾ。編者が批判するってのはどうなんだ?
作者の性的嗜好(?)は個性でもあるし、好きなもの書いて何が悪いんだ、という気持ちになった。ボーイミーツガールは少女(ガール)がいないとボーイミーツガールじゃないのだから。
以上、蛇足終わり。
日本と軍人
略歴をみて驚いた。作者は陸軍として戦後の日本にいたことがあるのだ! その影響か、日本の要素がある作品がいくつかあるらしい。
神風はタイトルからわかる通り「神風特攻隊」を想起させる短編。正直、一番面白かった。宇宙戦争で特攻を命じられる青年、というセカイ系ラノベのような設定にも関わらず、なぜこんなにも鮮やかで美しいのか。
これぞボーイミーツガールSF。
晩年に書かれた作品とは到底思えない。
たんぽぽ娘
みんな大好きたんぽぽ娘。読んで、なるほど好きになるわけだ、と思った。
年老いた主人公視点で語られる"たんぽぽ娘"の姿は遠き日の青春を思わせる。タイムトラベルがうまく組み込まれたラブストーリーになっている。
終わり方もすごく良い感じ。
その他いろいろ
この短編集はもちろん、ボーイミーツガールだけではない。SFならではのトリッキーなエンタメ作品、当時の風刺がきいた作品など。
荒寥の地よりは貧しい家族とそこに一時的に住み込みをすることになった男の交流の話。SFっぽくなくて、アメリカの一時代を思わせる話。これもまたノスタルジックな印象を覚えた。
少年少女のストーリー
ジャンヌの弓 は、こっちが気恥ずかしくなるほどにボーイミーツガール。ジャンヌと少年の話。清々しいほどハッピーエンド。ファンタジックでおとぎ話のような雰囲気だ。
おわりに
未来的な世界が描かれるのがSF。宇宙を巡る陰謀とか、世界を股にかける冒険とか、広い世界舞台になるイメージが強いかもしれない。
そんな中で、ロマンティックなSFが好きなのは、現実とは全く違う世界でも変わらない感情が、憧れた青春が描かれているからだ。
ヤングの作品はノスタルジックで、どこか懐かしい気持ちにさせる。純粋な心、忘れてしまった遠い思い出のような作品たち。
他の短編集も読んでみたいと思う。
- 作者: ロバート・F・ヤング,シライシユウコ,小尾芙佐,深町眞理子,岡部宏之,山田順子
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2017/02/23
- メディア: 文庫
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- 作者: ロバート・フランクリンヤング,Robert F. Young,伊藤典夫
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2006/10/01
- メディア: 文庫
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表紙も作風にあった感じで可愛い。
普段SF読まない人でも手を取りやすいんじゃないだろうか。
理想に過ぎないと知りながら、理想郷を思い描く<ヴィーナス・プラスX>
シオドア・スタージョンのヴィーナス・プラスXを読みました。
- 作者: シオドアスタージョン,Theodore Sturgeon,大久保譲
- 出版社/メーカー: 国書刊行会
- 発売日: 2005/05
- メディア: 単行本
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主人公チャリー・ジョーンズが迷い込んだ「レダム」は両性具有の人々が暮らす世界。 彼は元の場所にもどるために、「私たちの文明を評価してほしい」という条件を快諾するが……。
というのが本筋のストーリーなのだが、不思議なことに同時並行で現代のアメリカ家族の物語も描かれている。二つの物語はリンクしてる訳ではないが、本編のストーリーの見方に大きく関わってくる。
以下、感想箇条書き。
- ことばの説明
主人公は言葉が通じるようになる技術によってレダムの人々と会話ができるようになる。いわゆるホンヤクコンニャクみたいな便利道具。しかしながら、文化が違うがゆえにうまく訳せない事案がちょくちょく表現される。「彼」「彼女」は両性具有の人々に合う単語が存在しないとか。
実際、英語と日本語でもそういった課題に直面するかと思う。当然の報いとふさわしいデザートが可笑しいのは、どちらもジャスト・デザートであるからであって、日本語ではさっぱりなように。
これをちゃんと表現してるのが面白い。会話におけるニュアンスの難しさとか、伝わらないジョークとか。
- 客観的でいられない
あとがきにはこう書かれている。
セックスに関しては誰も客観的にはなれないのだ。ことにそれが、ある種の規範から外れている場合には。
これがおそらく、物語の主旨で、ストーリーの核となる部分。セックスと宗教は切っても切り離せない関係であり、ゆえに客観的に考えることができない。 男女の差など類似にくらべたら微々たるものなのに、切っても切れないものとして存在している。
それがなかったら?自然淘汰的に、その差が失われたならば理想的なのではないか。
- 愛の話
「ヴィーナス・プラスX」はセックスとジェンダーの話であると同時に、愛の話だ。主人公チャーリーは元いた世界にいるローラに思いを馳せる。それが、彼の原動力になっている。だからこそ、終わり方は少し皮肉っぽい。
ネタバレを避けて書いたら中途半端な感じになってしまった。 1950~60年の世相を反映した作品、にもかかわらず今でも十分に考えさせられる作品になっている。
活字を駆使した物語<死の鳥>
読んだ本感想。
ハーラン・エリスンの「死の鳥」を読みました。
- 作者: ハーラン・エリスン,伊藤典夫
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2016/08/05
- メディア: 文庫
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タイトルと表紙でどれを読むか決めてしまう人間です。死の鳥、カッコいい、読もう、です。
しかしながら、この本、すごい。
めちゃくちゃな作品ばかりである。タイトル通り、活字を駆使している。
太字や斜体やパンチングテープ(!)を駆使している。ラノベでみたことあるような紙面の使い方を、60~80年代のSF小説でしているのだ。
内容もすごく挑戦的。アイデアが抜きん出ている。
「おれには口がない、それでもおれは叫ぶ」
AMというコンピューターに閉じ込められた主人公たち、という今で言うディストピアもの。 パンチングテープで会話するAM、というのがなんとも60年代ぽい。
「死の鳥」
いくつもの場面・時間が同時並行する物語はよくみるが、それを読解問題のテストに見立てて描写する作品はみたことがない。繋がりのないようにみえる文章どうしが、これまた途中に挿入される問題文によって、繋がっている。 『創世記』の<蛇>を再考する発想がすごい。
「ジェフティは五つ」
タイトル通り!タイトル通りすぎて清々しい! 昔を懐かしむ気持ちは誰にでもある。でも今は むかしよりずっとよくなった。 その切なさ。 ジェフティが永遠に五つならば、主人公ダニィは彼に会うたびにその時代に戻れる。
……と、いったように、アイデアというSFの面白さが存分に味わえる短編集だった。
SFっていいね。